ネットワークシステムにおける可用性測定

信頼性工学の分野では、故障率とフォールトツリー解析(FTA)を用いて、複数の機器で構成される装置全体の稼働率を数値で導出することでシステムの可用性を定量的に評価します。我々はそれらを応用し、レイヤ構造による依存関係を考慮した稼働率計算手法を提案します。

ネットワークシステム(NS)の稼働は、システムを構成するリンクの稼働とノードの稼働により実現されることから、それらを用いてシステム稼働率を求めます。

可用性の阻害とリンクの依存関係

本モデルの特徴としてレイヤ間の依存関係がありますが、稼働率においても依存関係は敬称されます。それは、下位通信路リンクの稼働が上位通信路リンクの稼 働に不可欠であるためです。一方で、上位通信路リンクにおける障害が必ずしも下位通信路リンクの障害を示すことではありません。よって、それぞれの通信路 リンクは上位と下位で共通の稼働率ではなく、そえぞれが独自の稼働率を持つこととなります。ノード稼働率も同様で、依存関係リンクを持つノード群の稼働は 下位ノードの稼働の影響を受けます。

まず、下位レイヤの影響を排除した、リンクやノードそのものの稼働率の写像ƒE, ƒV を以下のように定義します。

そしてレイヤ影響を考慮したリンクやノードの稼働率の写像pE, pV を以下のように定義します。

ここでei = (va, vb), Va = {vi|e(va, va) ∈ ED}, Vb = {vi|e(vb, vi) ∈ ED}とすると, pEとƒE, pVとƒVは以下の関係をもちます。

ここでAR(va, vb)はある同一レイヤの2点va,vb間の稼働率とします。またL1のリンクやノードは下位に依存しないことから、pE(ei)=ƒE(ei), pV(vi)=ƒV(vi)となります。

システム全体の稼働率は、L5における通信がすべて稼働している状態であるとし、システム全体の稼働率AS(G)は以下のように定義します。

AR(va, vb)は2点va, vb間のパス数で決定されます。そのパスiを、リンク集合だけでなくノード集合も含んだ部分グラフPia,b=(V_Pia,b, E_Pia,b)で表すと、それぞれの稼働率AP(Pia,b)は以下の式で表されます。以降、Pia,bをパス部分グラフと呼び、AP(Pia,b)をパス稼働率と呼びます。

そして, AR(va, vb)はパス稼働率AP(Pia,b)より求められますが、それぞれのパスを構成するノードやリンクの重複を考慮しなければなりません。

すべてのパスで共通する部分がある場合、その部分グラフG’=(V’, E’)を取り出し、G’の稼働率と積和を取ることでAR(va, vb)の稼働率が得られます。

なお、すべてのiにおいてva, vbV_Pia,bであるため、V’は空集合にはなりません。

しかし、パス間でそれぞれ共通部分があり、重複が複雑多岐にわたる場合、上記2つの算出方法は利用できず、またAR(va, vb)の厳密計算は困難です。

一方、従来の信頼性工学において、複雑な重複を持つシステムの稼働率は、最小カットセットと最小パスセットを用いると、上限稼働率と下限稼働率を求められることが知られています。ここでは提案モデル上に拡張した上限稼働率と下限稼働率を示します。

上限・下限稼働率を求めるにあたり用いられる最小カットセットと最小パスセットは求めることが難しいことが知られていますが、パス部分グラフPia,bのすべてのノードとリンクが稼働していればノードva, vb間が稼働するため、パス部分グラフはパスセットであり、同時に、パス部分グラフのどの要素が欠けた部分グラフでもノードva, vb間の稼働は保証されないため、パス部分グラフは最小パスセットとなります。

最小パスセット群の稼働率の余事象から上限稼働率が求められることから

と示すことができます。

また、パス部分グラフ群の中から任意のリンクまたはノードを1つずつ選択した部分グラフΘia,b =(V_Θia,b, E_Θia,b)は、それらすべてが非稼働になるとva, vb間が非稼働になるためカットセットであり、また$\Theta$からどの要素が欠けた部分グラフでもva, vb間の非稼働が保証されないため、最小カットセットとなります。

最小カットセット群の稼働率の積和から最小稼働率が求められることから

と示すことができます。

ここで

です。

よって、これら最小パスセット群と最小カットセット群より、下記のように上限稼働率と下限稼働率が定まります。

上記をAS 適用することで、システム稼働率の上限と下限を求めることが可能となります。なお、詳細に関しましては情報処理学会論文誌 平成22年8月の論文誌ジャーナルに掲載予定ですので、そちらをご覧ください。